実行委員長メッセージ
第20回Japan Endovascular Symposium 総括
オンリーワンの“総説”学会を目指して

前略
おかげさまで第20回Japan Endovascular Symposium(2025年8月22日・23日・24日)を盛会裏にそして無事に終えることができました。
オンライン開催に舵を切って6回目のJESとなりました。今年は20周年であること、また昨年を含む過去のアンケート結果で多くの皆様方から「JESでLIVE SURGERYをやってほしい」との要望を頂きましたので、2016年以来のLIVE SURGERYを実施しました。今年の参加登録者はこのLIVE SURGERYの影響もあってか、昨年よりさらに増えて1404名となり、LIVE SURGERY中の同接視聴者が平日午後にもかかわらず、過去最高の750名となりました。また、その他ほぼすべてのセッションでも常に500名以上の視聴があり大盛況でした。
参加者1404名の内、医師の参加が756名であった事も嬉しく思います。こうした学会で医師比率が50%を超えることは珍しいことです。近年のJESは若手の教育にも力をいれており、これまで参加したくてもなかなか病院を離れられず参加できなかった遠方ならびに若手医師の潜在的ニーズに応えることができたと自負しております。フリーコメント回答と共に添付しましたアンケート結果では、これを裏付けるように初めての参加者が、昨年同様15%近くを占めており、オンライン・ライブストリーミング開催の長所が発揮されました。今年のアンケート結果で、「今年は何を見るために参加しましたか?」の質問では48%がLIVE SURGERYと回答されており、LIVE SURGERYに対する関心の高さを感じました。そのLIVE SURGERY 1(ライフライン共催)では、54%が勉強になった、18%が面白かったとのご意見を頂きました。LIVE SURGERY 2(日本ゴア、キャノンメディカルシステムズ共催)では勉強になったが73%と非常に有意義だった事が見て取れます。我々の想いがこのLIVE SURGERYを通じて視聴者に伝わったと感じたのは、アンケート結果でも多くあった「実際の手技以外の部分を見られて良かった」とのコメントです。例えば「善行をしているのだから過度にへりくだったり、委縮する必要はない」、「紹介医や患者への報告書についての考え方を知れてよかった」などのコメントは、手術に向けての外科医の姿勢を理解してくれた視聴者がいた事でもあり、幾多のハードルを乗り越えLIVE SURGERYを実施して良かったと強く感じています。アンケート結果で3番目に多くの支持を得たのは、JESの目玉セッションである「不成功・反省症例」の21%でした。実臨床に則したセッションで、残念ながら不成功となった症例を提示して反省点を討論する事が多くの医師への勉強になると再確認しました。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」がこのセッションの当初よりの狙いですが「してやったり」の想いです。今年の発表でも、明日からの手術にもすぐに役に立つ数々の教訓がありました。多くの患者の命を預かっている参加医師が自施設にこの教訓をもちかえって「他山の石」とする事でJESは数千、数万人の患者のウェルビーイングに貢献していると自負しています。不幸な転帰をたどった厳しい経験を、勇気をもって、ご発表頂きました先生方に敬意と謝意を表します。
今年のJESではLIVE SURGERYと通常セッションを合わせて2.5日開催でトータルで約28時間行いました。私は例年通りすべてのセッションで司会をこなし、すべての演者の一言一句を聞き逃しませんでした。正直疲労困憊でした,,,しかし、この疲労を吹き飛ばしたのは、皆様からの声です。このように長時間の配信をしているにも関わらず、長すぎるという回答はわずか2%であり、85%が丁度よい、がアンケートの声でした。今年もこれまで通りの徹底討論を心掛けましたが、昨年までのアンケートで時間が遅れる事に対するご不満の声が少し聞かれましたので、ほぼオンタイムでの進行を心掛けました。結果として、例年、“押せ押せ”のJESとしては珍しく幾度か休憩時間を取ることができ、その時間に懐かしい過去のJESの映像を流す事ができ、これはこれで好評でした。そして、3日間ともほぼ定刻に終了することもできました。
事務局は、原正幸・JES事務局長をはじめ、副事務局長は、第123回日本外科学会事務局長をつとめた宿澤孝太、2年後の2027年に開催予定の第55回日本血管外科学会事務局長をつとめる福島宗一郎、ノベルティ・宴会担当を大森槙子がつとめ、彼らを軸として慈恵医大血管外科全員で、幾度も会議と検討を重ねプログラム策定をしました。運営は、2006年の第1回JES以来20年間、不動のパートナーの藤井さん率いるエヌ・プラクティス、そしてライブ配信と土日の映像担当は、教映社の成澤さんのチームで、久々のLIVE SURGERYにも関わらずトラブルなく運営してくれました。時に無茶な注文をつける大木に良くぞ20年間も付き合ってくれたものと感謝しています。
さて、今年のその他のプログラムについて述べますと、土曜日の午前のJES肝入り企画である大動脈解離のセッションは大変有意義でした。多くの未解決事項がある領域ですが、昨年のJESで「急性期での大動脈解離の治療成績は極めて安全で良好な反面、慢性期に瘤化してからの手術では経験豊富な施設で最先端のFenestrationや“あの手この手”を駆使しても瘤拡大が止められないケースが少なくないので、過度に将来瘤化ハイリスク要因にこだわらずに、生命予後が良い事が期待される偽腔開存型の患者ではもっとリベラルに急性期の時点でステントグラフトで治療すべきではないか」という考えが共感を呼び、今年はさらなる進化を遂げて、Preemptive TEVARを含めた最新の治療についての発表をしてもらいました。私自身、瘤が拡大した慢性期の解離瘤の難しい手術でも何とかcomplete exclusionが達成できていたとの自負がありましたが、それらが非常に困難な手術であることも承知しているので、急性期preemptive治療の意義を一層感じました。その熱い討論の後には心温まる20年特別企画「JESは私の人生を変えた」セッションがありました。このセッションは長年のJES支持者・支援者が我先にと応募してくれて、全国の選ばれし熱烈なファンが集まりました。どの発表も目頭が熱くなる時間でした。一口に20年と言えど、多くの仲間とともに長い時間をかけてJESが成熟し、同時に仲間・同志が集ってくれた事を実感した瞬間でした。そこからは怒涛のプログラムが続きました。急性動脈閉塞のセッションではウロキナーゼ供給不足から緊急承認を得て登場したIndigoがPMSを終えて、急性動脈閉塞の治療に新たな風を吹き込みました。同様の背景からDVTの治療も大きく変化の兆しが見えました。これらのセッションも非常に盛り上がりましたが、この日の最後にはType II endoleak対策などのAAAの治療戦略の発表があり、何度話しても議論が尽きない興味深さと謎めいた側面がありました。
最終日の日曜日の朝は、定番の賢者かつ盟友である飯田修先生による「血管内治療最新の知見」です。飯田先生には多忙な医師が効率よくLEADに関するアップ トゥ デイトな知識を得られる濃密プレゼンをお願いしましたが、毎年、毎年発表してもらっていますが、今年も期待を裏切ることなくやってくれました。また毎年、自社製品しばりのない損得勘定抜きで本企画を協賛してくださったテルモ社にも感謝します。そして、「シンポジウム6:RIBSここまできた」では、慈恵オリジナルで過去10年以上改良と実績を重ねた「手術困難弓部大動脈瘤に対するRIBS手術」が全国の大動脈瘤基幹病院に拡がり、各地で良好な成績を収め、何よりも定着しつつあることが明らかとなり感慨深かったです。これらの一流施設が一堂に会して脳梗塞に対する対策が発表されました。自分はRIBSを開発した者として誰よりも多くの手術を実施し、そして深く考えて参りましたのでRIBSに関して他者に教わることはない、と過信していましたがこれは全くの誤りであり、ご当地RIBSで多くを考えさせられ、学びました。そして、一段階RIBSが市民権を得る階段を上がった気がしました。その他にも、たくさんの有意義なセッションとディスカッションがありました。
私が米国から帰国した2006年にJESを立ち上げた時の狙いはPAD、大動脈瘤に対する血管内治療に対する食べず嫌い、抵抗感の強かった日本の学会の長老医師らに「論より証拠」の発想でマインドチェンジをしてもらう事でした。これはまだ米国にいた1998年のVEITHシンポジウムで世界で初めて大動脈瘤ステントグラフトのLIVE SURGERYを断行した際の発想と同じです。したがって最初の10年はひたすらLIVE SURGERYにこだわり、頸動脈から下腿に至る手術を2日間で20例以上配信しました。今思うと、どうやって全部一人で手術をしていたのかが不思議なくらいです。この20年間には、ライブサージェリーガイドラインの厳格化と日本で血管内治療が市民権を得た事などからLIVE SURGERYの位置付けが大きく変わりました。この時、慈恵スタッフにはJESは歴史的使命を終えたので幕引きしよう、と伝えました。しかし、医局員に加えて慈恵以外のJESファミリーからも開催継続の要望が強かったので、JESの目的を変えて続けることにしました。華やかで臨場感あるLIVE SURGERYの魅力は認識しつつ、反省・失敗症例は一年を通して数例しかないレア物ですので、経験豊富な医師らに勇気をもって反省・失敗症例を提示してもらえればLIVE SURGERYを凌駕する教育効果があると考えました。JES改宗の1回目のスローガンは「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」としました。これらは今尚、色褪せる事無く、アンケートでもご好評いただいており、他の学会や研究会でも模倣したセッションが開かれるまでにもなり、この企画の教育的意義の高さを裏付けており、JESの大きな柱となりました。今年は2016年以来のLIVE SURGERYを行い、好評を博しましたが、それ以上に不成功・反省症例セッションを支持してくれる参加者が多かった事は嬉しかったです。これまでJESでは「発表のための発表」的な贅肉を削ぎ落とし、テーマと演者を厳選し、演者のメンツと形式重視の表層的議論ではなく、真に医療の改善につながる本音ベースの徹底討論を外国人を交えずに日本語で行って参りました。すなわち、JESは、時間とお金をかけて全国各地の様々な学会に行って勉強する現行の非効率を改善し、極論すれば「JESで2日間、ワンコインでオンラインで集中的に視聴すればその年の血管内治療の勉強は事足りる“総説学会“あるいは“まとめサイト”」を自負しております。さて、翌年のJESの構成に大きく影響するのが皆様のアンケート回答ですが、批判的なコメントはほぼ皆無で胸を撫で下ろしています。来年のJESに向けてはみなさまからの回答を念頭に、そしてその時々の大事なトピックスと演者を血管外科スタッフとともに各学会でアンテナを高くして模索して参ります。
過去20年の間には心が折れるような辛いことも幾度かありましたが、JESを無事終え、そして皆様からのアンケート結果を熟読・分析した今、今日までがんばって継続してきて良かったと改めて感じておりますし、多くのJESファミリーと20周年を迎えることができて感無量です。改めて御礼申し上げます。
なお、オンデマンド配信については、今回も多くの方からご要望を頂きましたので、許諾が得られたプログラムの講演について、準備をすすめております。公開ができるタイミングになりましたら、改めてご案内いたします。
See Ya and 草々
第20回 ジャパン エンドバスキュラー シンポジウム (JES 2025)
実行委員長 大木 隆生
東京慈恵会医科大学 外科学講座
血管外科教授
https://twitter.com/Ohki_TakaoMD
