実行委員長ご挨拶

第11回JES開催にあたって

大木隆生 JES2016実行委員会実行委員長

2006年から連続開催のJapan Endovascular Symposium (JES)は今年で11回目を迎えることができました。皆さまのご支援に心より感謝します。

JESでは第1回開催時から毎回参加者アンケートを行っており、アンケートで得られた皆さんの声を反映してプログラムを作ってきました。ライブに関しては中止になる前は、ほぼ全員から有意義だったとのコメントを頂き、中止になってからの3回のJESでは、多くのお励ましと同時に回答者全員からライブ再開を望む声を頂きました。こうした皆さんの想いを背に、死亡事例のおこった2012年以降は、第3者委員会による検証、3学会の新ライブサージェリーガイドラインへの対応、さらに慈恵医大学関係者および学内倫理委員会への説明と承認を得る事に奔走しました。2013年時には新ガイドラインがまだ未公表であった事、2014、2015年時は学内倫理委員会に計画書を提出するも承認が得られなかった事からライブサージェリーを中止せざるを得ませんでした。中止から4年目の今年もあきらめることなく年初から学内倫理委員会、臨床研究審査委員会、さらに病院執行部へライブサージェリーの申請をし、最終的に10回に及ぶ会議と文書によるやり取りを経てようやく皆様のご要望に応える事ができる運びとなりました。

皆様からは絶大な支持とご要望があったライブ復活ですが、現代のリスク回避社会においてライブを敢行することに、私の周辺では慎重な意見が大勢をしめていました。また過去数年間、ご承知のように文春砲などの週刊誌報道を含め、私を取り巻く環境はまさに逆風でした。こうした中で、ライブを復活させることに関して多くの慎重意見があがりました。「万一の際はどう対応するのか」、「ライブの意義は分かるが、教授職をかけるほどの価値があるのか?」、「世のために既に十分貢献したのだから今後は少しは自分を守れ」などの慎重論や思いやりある意見を頂きました。でも、JES参加者のご要望、ライブの教育効果の高さに加えて他診療科医によるライブサージェリーが盛んにもかかわらず外科医によるライブがほぼ消滅した今こそ、JESでライブサージェリーを再開させる事に意義があり、まさにJESの使命であると考え、勇気のいることでしたがライブサージェリー再開を決断しました。

医療、こと手術においては100%安全ということは保証されておりません。もし、こうした中、再開したライブサージェリーにおいて不測の事態が起こった場合には、それはライブを行ったこととの因果関係の有無にかかわらず、非難の的となることは不可避でしょう。そういう意味で、今回の4年ぶりのライブ復活を嬉しく思うと同時に内心は「崖っぷちライブ」と言う心境です、これまで以上に準備を重ね、慎重に実施したいと誓っています。

かつてJESでは、未承認デバイスや臨床治験症例を多数盛り込み「JESは血管内治療の未来を知るクリスタルボール」と銘打っておりました。今思うとその古き良き時代が懐かしいですが、これらJESでしか見られないエキサイティングな手術は新しいガイドラインではライブサージェリーで披露するのは適切ではないとされていますので、このJESの謳い文句は取り下げます。とは言え、こうした最新の手術でなくても、すなわち承認デバイスを使った標準的な手術にも数多くの落とし穴があり、それだけteaching pointもあります。また承認デバイスでも例えばCordis社OUTBACKやゴア社Viabahnのように、まだ皆さんがお使いになったことのない新しいデバイスもありますので、標準手術あるいは承認デバイスを用いたライブサージェリーでも供覧する意義は十分にあるでしょう。さらに、かつてはJES2日間の間に20例前後のライブ症例を行っていましたが、慎重には慎重を期すために、今年は6例に絞りました。その分、レクチャーやディスカッションできる時間が増えましたので、日進月歩の血管病治療におけるコントラバシーや最新のテーマを皆さんとファカルティーを交えて討論することで、「参加して良かったJES」を目指したいです。そのためにも、昨年導入して好評だったアナライザーを今年も用い、随時、タイムリーなアンケート調査を行い、また、反省・成功症例セッションでは、皆様の投票で、ベスト症例賞を決めるなどして、昨年からの流れを受け継いで今年も「参加型JES」としたいです。毎年JES後に行っているJESに関する感想を含めたアンケートとともに、リアルタイムで皆様のご意見が伺えるアナライザーはJESをより実りと意義のある会にするために有益と考えておりますので、いずれにもご協力ください。

さて、今年のJESでのグッズですが、ペン先がライトになっているボールペンにしました。この種のペンは、これまで懐中電灯にペンがついたと言う感じのかさばる物しかありませんでしたが、スタイリッシュで、ライトの消灯も簡便で、学会発表中の暗い会場でも手元が明るくなるなど実用性も高い上に、サーチライトとしても使えるので秒読み段階に入った首都直下地震や停電の際にも「このペンを持っていて良かった」と感じる瞬間があるかもしれません。また、昨年来の事実無根の週刊誌バッシング記事に対し法的手続きをとる事はスタイルではありませんし、かといって泣き寝入りをするのは悔しいですので、私流の世間に対する説明責任を果たし、同時に週刊誌に対するやんわりとした反論として集英社新書から「医療再生 日本とアメリカの現場から」を上梓しました。タイトルこそ固いですが、内容はくだけたイージーリードですし、血管内治療の近代史が私の半生記とともに記されていますのでお読みいただければ幸いです。ご興味が無い方にとっても、サイン入りの同書はネットオークションで高値で取引されていますので無価値ではないでしょう。バッグは通常の学会バックではすぐに捨てられてしまいますので過去のJESではオリジナルエコバッグか使い捨ての紙袋にしていましたが、今年は「捨てられないかもしれない」JESオリジナルバッグを作りました。通常のノートPCが入るあまり一般的でない間口が広い横型のものです。その多くは捨てられてしまうと思いますが、一人でもJES後にも使っていただければ作った甲斐があったと思います。

ライブサージェリー再開の意味する事、それに対する我々の覚悟と想いをご理解いただいた上で、どうかライブサージェリーとJESの成功を祈ってください。JES開催の意義を胸に、皆さんの祈りを追い風にして第11回JESもより多くの皆様が忙しいスケジュールの合間にJESに参加してよかったと思ってくださるような会にすべく慈恵医大血管外科スタッフ一同願っております。

JES2016 実行委員会 実行委員長

大木 隆生

東京慈恵会医科大学 外科学講座

統括責任者・血管外科教授

エッセイ

Japan Endovascular Symposiumにおけるライブ手術の意義

ライブ手術の意義については日本心臓外科学会、日本胸部外科学会、日本血管外科学会の3学会合同で制定された「胸部・心臓血管外科ライブ手術ガイドライン」にも次のように明記されています(文献1)。すなわち「手術中の刻々と変わる状況に応じた瞬間、瞬間の判断が学べる」、「インタラクティブなディスカッションができる」、「視聴者の知恵とサジェスチョンを手技に反映することができる」と記載されています。さらに、ガイドラインなどでも強く推奨されているビデオ手術に関してですが、手術野あるいは手術室の限られた範囲しか撮影されていないビデオ手術とは異なり、聴衆の要望に応える形で画面には写っていない術野、術者の手元、さらに手術に携わる看護師や麻酔科医などスタッフの動きにもカメラを向ける事で随時供覧できるので参加者に対する教育効果が大きいと考えられています。また、外科医・血管内治療医の多くは頑固であり、物の本や編集されたビデオを見てもなかなか自分のスタイルを変えません。その点、ライブ手術は疑いの余地のない真実であるために強い説得力と教育効果があると言われています。学生のポリクリの外科教育も手術ビデオではなく、手術に立ち会わせているのはこうした理由からです(文献2)。また、手術ビデオの供覧では会場に足を運んでくれる参加者が少ないです。実際、各種学会のビデオセッションをみてもJESや他のライブサージェリー研究会のように千人単位の参加人数は集いませんし、長い時間聴講してもらえません。何故かライブサージェリーは人を引き付けるのですが、その理由はともかく、どんなに上手に編集された手術ビデオを供覧しても、それをきちっと見てくれる医師が少なかったら教育効果は限定的ではないでしょうか?以上のライブ手術の意義はJESで毎年参加者を対象に行っているアンケート調査でも、100%の参加者がライブ手術は有意義だったと回答し、ライブ手術が中止されていた2013年‐2015年のJESアンケート調査で回答者全員がライブ手術の再開を希望していた事実を見ても明らかです。

さて、ライブ手術以外の教育方法としては従来の手術に立ち会う方法が一般的であり、慈恵医大でも毎月の様にポリクリの学生に加えて見学者を受け入れています。しかし、手術室立ち会いの見学では手術室の広さに限界があり、一度の手術に10名以上の受け入れは不可能である上、肝心の術野と術者の操作が見える位置は限られており、見学者の不満も多いのが実情です。さらに、手術室に部外者が入ると患者氏名はもとより、患者の顔やその他の情報もマスキングする事が出来ないため個人情報保護の観点からも好ましくありません。さらに部外者が大勢手術室に入る事により清潔性も保ちにくく、感染予防の観点からも好ましい事ではありません。これに対してライブ手術では参加人数の制限がない上に手術のポイントとなる場面や術野を参加者全員が等しく、良く見える上に個人情報の保護と衛生的環境が守られます。すなわち、ライブ手術では視聴者全員が会議室に居ながらにして手術立ち会い以上の効果を持つ上に、ガイドラインを遵守すれば患者にとって明白な不利益がありません。

また、手術によりライブに適したものとそうでないものがあります。例えば開胸・開腹手術など術野が深い手術ではカメラの位置と術者の立つ位置が競合するため、ライブ手術を行う際に術者はカメラを遮らないように気を使わざるを得ません。上記3学会のライブ手術のガイドラインもこうした外科手術を念頭に書かれています(文献1、3)。その点、JESライブ手術では過去も、今回も、術者が余分な神経を使わなくて良い手術を選択しています。なぜなら、血管内治療は術者が見るモニターからの画像を直接ライブ会場に配信できるからです。頸動脈、大腿動脈の外科手術など術野が浅い手術ではカメラと術者の立つ位置は競合しません。ライブ手術のデメリットとして術者が緊張して本来のパフォーマンスを発揮できない可能性が指摘されています。しかし、それは個々の術者によって違いますし、経験値にもよると考えられます。JESライブ手術の場合は日米を含む世界7か国でライブ手術を200件以上施行した術者が担当しますのでこうした懸念は一切ない上に、教育病院では非ライブ手術の場合、若手医師が上級医師の指導を受けながら手術を行いますのでガイドラインを遵守したJESのライブ手術は患者にとってメリットは明らかでデメリットはほぼ皆無であると言っても過言ではありません(文献4)。実際、2005年から2011年までの6年間で行ったライブ手術122例と同期間に行った非ライブ手術の合併症率、死亡率を比較した結果、ライブ手術の安全性は保たれている事が証明されました(文献5)。また透明性の観点からも非ライブ手術に比べて優れている事は論を待ちません。

近年日本において急増している血管病に対する外科手術とカテーテル治療は日進月歩であり、それを扱う医師は常に技術や知識を習得する必要にかられていますが、手術の立ち会い見学には限界がありますので、それを習得する機会は極めて限られています。すなわち、JESライブ手術には日本国全体の血管病診療のレベルを上げるという意義を有しており、医育機関である慈恵医大の使命を果たすための極めて有効かつ有意義な教育ツールであると信じています。

参考文献

  • 1)胸部・心臓血管外科ライブ手術ガイドライン(改訂版) http://square.umin.ac.jp/jscvs/news/20140612gaido.html
  • 2)大木隆生。胸部・心臓血管外科ライブ手術ガイドラインの解説とその功罪。日本外科学会雑誌114:3、132‐136、2013
  • 3)CCTライブ調査委員会報告書概要http://jscvs.umin.ac.jp/jpn/cctgaiyou.html
  • 4)大木隆生 「医療再生 日本とアメリカの現場から」集英社新書2016
  • 5)内田 由寛, 津村 康介, 大木 隆生、他。ライブ手術における安全性の検討. 日本外科学会雑誌(0301-4894)113巻臨増2 : Page708, 2012

JES2016 実行委員会 実行委員長

大木 隆生

東京慈恵会医科大学 外科学講座

統括責任者・血管外科教授