実行委員長ご挨拶

第19回Japan Endovascular Symposium 総括

前略

おかげさまで第19回Japan Endovascular Symposium(2024年8月24日・25日)を盛会裏に終えることができました。

オンライン開催となって、5回目のJESとなりましたが、今年の参加登録者は昨年よりさらに増えて1200名となり、ほぼすべてのセッションで常に500名以上の視聴があり、最多セッションは約700人に迫り昨年をさらに上回る大盛況でした。

また、医師の参加が600名であった事も嬉しく思います。近年のJESは若手の教育にも軸を置いており、これまで参加したくてもなかなか病院を離れられず参加できなかった遠方ならびに若手医師の潜在的ニーズに応えることができたと自負しております。アンケートではこれを裏付けるように初めての参加者が約15%を占めており、オンライン・ライブストリーミング開催の長所が発揮されたと思っております。一般的にオンライン開催は質疑応答が盛り上がらない点が短所とされていますが、368名から得られたアンケートでも「徹底討論がよかった」「忖度なしのディスカッションが勉強になった」「一般からの発言の機会がありがたかった」との声が多数聞かれ、それは杞憂であった事が明らかです。さらに、不成功・反省症例検討会、してやったり症例検討会では、視聴者によるリアルタイム投票でベスト症例賞を決定するなど、対面形式以上に参加者との双方向性と一体感をもって開催できたことも嬉しく思いました。

合計28セッション25時間の連続座長で議論が白熱したために、今年も最後は予定時間よりも1時間以上も超えてしまう中継となってしまいました。それに加えて、プログラムではセッション間に10分休憩11回、5分休憩11回 合計165分の休憩時間を設けておりましたが、すべての休憩時間を完全に返上した上での25時間となってしまいました。。。そこには私が司会を続けるためにPCをトイレに持ち込んだ1分x 4回=4分も含まれており、すべてのセッションの司会を一度も途切れることなく務めました。これは昨年に続きギネスレコードではないでしょうか。時間延長の原因は、座長の不手際だけではありません。各演者の興味深く充実した内容のプレゼンテーション、参加者からのグッドクエスチョン、一定の結論を得るまでの徹底討論、等の結果、時間延長に至ってしまった訳であり、私としては確信犯であります。つまり、単に間延びしたのではなく、時間的にビハインドになる事の弊害と、必要な議論をすることのメリットを秤にかけた上での判断とご理解してください。通常学会ではタイムスケジュール堅持が必須であるため中途半端、消化不良で議論を終わらせざるを得ない場面にしばしば遭遇しますが、こんな時こそオンライン、ライブ手術なし、そして大木個人商店的JESの強みを活かしてシームレス・連続25時間の白熱討論を断行した事をご理解ください。そしてこの強みは、大谷翔平の9回裏2アウトでのサヨナラ満塁ホームランでの40-40(セクシーなのに誠実という二律背反)達成という歴史的瞬間を皆様とライブで共有し、盛大にお祝いできたというプレシャスモーメントでもいかんなく発揮されましたし、パスツールの名言“Fortune favors the prepared mind”を実感しました。
にもかかわらず368名から回答が得られたアンケートでは討論時間に関して「丁度良い」が91%、「短すぎる」が4%であった事は奇跡的であり、また、JES自体については「面白かった」が80%、「参考になった」が20%で合わせて無記名回答を含めすべての皆さんが支持してくださった事は心から嬉しい事であると同時に快挙と自負しています。また、25時間、すべての演者、討論者の一言一句を聞き逃さなかった自分としても、すべての時間が有意義で興味深かったですので退屈に感じたり、眠くなったり疲労を感じる瞬間はありませんでした。医師の働き方改革に照らしてこの25時間が時間外労働、インターバル無視と計上されると少し厄介ですが、すべて自己研鑽あるいはエンタメ時間で申告するのでノープロブレムです。

昨年に引き続き原正幸・JES事務局長、昨年開催の第123回日本外科学会事務局長をつとめた宿澤孝太・副事務局長、3年後の2027年に開催予定の第55回日本血管外科学会事務局長をつとめる福島宗一郎・副事務局長、ノベルティ・宴会担当大森槙子・副事務局長、そして慈恵医大血管外科全員で策定したプログラムでした。全セッションで活発なディスカッションが展開され、アンケートでも好評だった事を嬉しく思っております。ご発表、おかざりとは言え共同座長で御登壇頂いたファカルティー皆様には深く感謝申し上げます。JESの運営に関しまして、中継に遅延やトラブルは全くありませんでした。これは2006年の第1回JES以来19年間ずっとパートナーであった藤井さん率いるエヌ・プラクティスと成澤さんの教映社が蓄積した経験とコミットメントの賜物です。

今年も多くのプログラムが心に残りましたが、やはりその一つはJESの目玉商品でもある不成功・反省症例検討会で、JESの真骨頂セッションです。人間は成功から学ぶより、不成功から学ぶことがはるかに多いですので明日からの手術にすぐにでも役に立つ数々の教訓があり、各々多くの患者の命を預かっている参加医師が自施設にこの教訓をもちかえって「反面教師」とする事でJESは数千、数万人の患者の命を間接的に救っていると自負しています。不幸な転帰をたどった厳しい経験を、勇気をもって、ご発表頂きました先生方が、自身の苦々しい経験を潔く省みて、皆に共有する姿勢に敬意と謝意を表します。JES初日の肝入り企画である大動脈解離のセッションも大変有意義でした。まだまだ、多くの未解決事項がある領域ですが、少なくともこのセッションで急性と慢性大動脈解離の第一人者による最新のデータの供覧と徹底討論から「急性期での大動脈解離のデバイスと治療成績は極めて安全で良好な反面、慢性期に瘤化してからの手術ではトップ施設で最先端のFenestrationや“あの手この手”を駆使しても瘤拡大が止められないケースが多いので、厳格に将来瘤化ハイリスク要因にこだわらずに、生命予後が良い事が期待される患者で偽腔開存型は基本的に急性期の時点で全例ステントグラフトで治療すべしではないか」というJES提言に至れた事は大きな収穫でした。私自身、瘤が拡大した慢性期の難しい手術でも何とかcomplete exclusionが達成できていたとの自負がありましたので急性期pre-emptive治療に消極的でしたが上記理由から考えを改める事にしました。今後、有志と力を合わせて、この宣言の妥当性をRCTで検証します。RCTと言えば昨年、自分が思い付きで発した「大切断前にレオカーナ」というコンセプトの是非もRCTで検証します。その他のプログラムでは恒例となっている2日目の朝の盟友飯田修先生による「血管内治療最新の知見」です。飯田先生には多忙な医師が効率よくLEADに関するアップッゥデートな知識を得られる濃密プレゼンをお願いしましたが今年も期待を裏切ることなくやってくれました。また損得勘定抜きで本企画を協賛してくださったテルモにも感謝します。そして、「シンポジウム6:ご当地RIBS update」では、慈恵オリジナルで過去10年以上改良と実績を重ねた「手術不能弓部大動脈瘤に対するRIBS手術」が全国の大学病院に拡がり、各地で良好な成績を収め、何よりも定着しつつあることが明らかとなり感慨深かったです。ただ、そもそも手術ハイリスクを対象としている上に単施設から多施設へと裾野を広げた事に伴う脳梗塞を含む合併症率増加に関してはさらなる工夫が必要であると認識しました。その他にも、枚挙にいとまがありませんので、このくらいにしますが、今年のJESを終えて、19年間継続してきて良かったと心から思いました。何よりも、全力で発表あるいは質疑に参加して頂いたJESファミリーと今年向かえた新しい仲間のみなさまに大変感謝しております。改めて御礼申し上げます。

第1回目から実施しているJES参加者アンケートは368名の方からご回答頂きありがとうございました。先述の通り、ほぼ100%の皆さんに「今年のJESは有意義、あるいは面白かった」「オンライン開催はよかった」とご回答いただき嬉しく思います。「JESに求めるものは?」という一択質問には、1)新しい知見、2)他の学会にはない徹底討論、3)大木のトーク、がいずれも各30%、計90%と強く支持されておりましたので、今後もこうした声に耳を傾けつつ本音討論を優先し通常学会との差別化をはかり続けたいと思っております。また、アンケートで多くの参加者が大谷の40-40達成をバーチャルパブリックビューイングできた事を喜んでくれていた事もわかり、してやったりの気分です。その他のアンケート結果をまとめたデータを添付しましたのでご覧ください。

さて、おかげさまで来年でJESは20周年を迎えます。私が米国から帰国した2006年にJESを立ち上げた時の狙いはPAD、大動脈瘤に対する血管内治療に対する食べず嫌い、抵抗感の強かった日本人医師らに「論より証拠」の発想でマインドチェンジをしてもらう事でした。これはまだ米国にいた1998年のVEITHシンポジウムで世界で初めて大動脈瘤ステントグラフトのライブ手術をした断行した際の発想と同じです。したがって最初の10年はひたすらライブサージェリーにこだわり、頸動脈から下腿に至る手術を2日間で20例以上配信しました。今思うと、どうやって全部一人で手術をしていたのかが不思議なくらいです。また、今も昔も多くの海外の友人からJESにファカルティーとして参加したい、との要望がありましたが外人が一人でも入ると英語セッションにならざるを得ず、それでは議論と理解が深まらないので当初から外人コンタミネーションのない学会としました。そして途中からライブガイドラインの厳格化と日本で血管内治療が市民権を得た事などからライブサージェリーの位置付けが大きく変わりました。この時、慈恵スタッフにはJESは歴史的使命を達成したので幕引きを終わりにしよう、と真剣に伝えました。しかし、医局員らは継続開催を熱望したので狙いを変えて続けることにしました。その新しい狙いはライブと通常学会では学べないコンテンツとすることで引き続き唯一無二とするというものでした。華やかで臨場感あるライブの魅力は認識しつつ、反省・失敗症例は一年を通して数例しかないレア物ですのでライブの最大の欠点は成功例ばかり、という点です。そこで、経験豊富な医師らに勇気をもって反省・失敗症例を提示してもらえればライブを凌駕する教育効果があると考えました。実際、このJES改宗の1回目のスローガンは「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」としました。通常学会との差別化に関しては「発表のための発表」的な贅肉を削ぎ落とし、テーマと演者を厳選することでした。それと、演者のメンツと形式重視の表層的議論ではなく、真に医療の改善につながる本音ベースの徹底討論を外人交えずに日本語でする事です。つまり、JESは一言で言って、ライブとは違った切り口で手術手技の勉強ができ、さらに学術的な面でも時間とお金をかけて様々な学会に行って勉強する非効率を改善し、極論すれば「JESで2日間集中すれば血管内治療の勉強は事足りる“まとめサイト”」です。来年の第20回JESの構成に関してはこうした狙いを念頭に、またJES2024に対する皆様のアンケートの内容を踏まえつつ、旬な話題を血管外科スタッフとともに各学会でアンテナを高くして模索して参ります。向こう1年間の様々な学会場に当科スタッフを配置しますが、一人一人がミシュラン審査員の気持ちで聴講していることをお知りおきください。

なお、オンデマンド配信については、今回も多くの方からご要望を頂きましたので、許諾が得られたプログラムの講演について、準備をすすめております。公開ができるタイミングになりましたら、改めてご案内いたします。

皆さまのご尽力とご提言、コメントがあってのJESです。改めて感謝申し上げます。

See Ya and 草々

2024年8月31日

第19回 ジャパン エンドバスキュラー シンポジウム (JES 2024)
実行委員長 大木 隆生
東京慈恵会医科大学 外科学講座
血管外科教授
https://twitter.com/Ohki_TakaoMD