実行委員長ご挨拶

第8回 Japan Endovascular Symposium ー賢者は歴史に学べー

大木隆生

Japan Endovascular Symposiumは2006年から皆さまの声に支えられて7回連続して開催してまいりました。そしてその運営においては、日本心臓血管外科学会のライブサージェリーガイドラインを遵守し、司会者の設置、適切なライブ症例選択に基づくプログラムの構成を行ってまいりました。さらに、こうしたJESの概要をガイドラインに則り、日本心臓血管外科学会と慈恵医大医療安全部に事前に報告し、シンポジウム終了後には症例の転帰を文書で報告してまいりました。症例の経過に関してはホームページ上でも、参加された皆さんにも文書で配信・報告してまいりました。また、2012年の日本外科学会ではそれまでの6回のJESで施行した全ライブ症例122例とライブ以外で慈恵医大で施行した同様の血管外科手術の成績を比較検討し、ライブだからという理由で合併症が多いと言う事が無いという研究結果も発表しました。

このように、ライブ開催にあたりましては細心の注意をはらってまいりましたが、昨年の第7回JESにおいて死亡事例が起きてしまいました。患者さんがお一人亡くなってしまった事実は厳粛に受け止めておりますが今回の症例選択、治療計画、手術手技は事前に十分な検討を行っており、学会にも病院にも事前に報告し了承を得たものでありました。実際、問題となった手術、すなわち弓部大動脈瘤に対するチムニー法によるステントグラフト内挿術は我々にとっては日常的に行っている手術で、手術成績も死亡・脳梗塞発生率1/44と極めて安定している手術でしたし、手術の遂行に関しても落ち度はなかったものと確信しております。学会にはJES終了翌日に口頭で、翌々日には文書で問題となりました手術の経過を報告しました。その後、院内では事例検討会を立ち上げ、学会推薦の3名の外部委員も招聘し検証もしました。さらに、結果公表を前提とした調査委員会を立ち上げ現在この調査委員会で原因究明と再発防止策に対しての検討がなされているところです。

JESを含めたライブサージェリーは、ルールを遵守して実施すれば素晴らしい教育ツールであります。実際、毎年参加者に行っておりますアンケート調査結果でも、例えば第7回においてご回答頂いた皆様の95%から「有意義であった」、「参考になった」、98%から「次年度も参加希望である」、など大変有難い評価を頂き、また心強い励ましのお言葉も多数頂きました。

そこで以上の状況をかんがみ、第8回JESは、ライブサージェリーの実施を中止し、その代わりに、ライブサージェリ―ではめったに遭遇できない不成功症例から多く学んで頂く企画としました。当初は、慈恵医大血管外科で7年間で施行した血管手術とインターベンション3,000例の中から最悪の不成功症例・死亡症例を30例を厳選し、解説をしながら皆さんと供覧する予定でした。しかし、JESホームページや、ファカルティーにも症例を募集させて頂いたところ、公募で8、ファカルティーから31と非常に多くの症例提示を頂くことができました。本シンポジウムの趣旨をご理解くださり、不成功症例を勇気をもってご提示くださったことに、心から感謝したいと思います。さらに慈恵医大からの21例を加えて、全60反省・失敗症例を皆さまと供覧します。

ライブサージェリーのような刻々と変わる状況に応じた瞬間瞬間の判断、インタラクティブなディスカッション、皆さまの知恵とサジェスチョンを手技に反映することなどのライブの長所は損なわれるかもしれませんが、全国から集まった貴重な不成功症例を通じて、皆さんと反省を共有し、極力同じ過ちを繰り返さないよう例年のライブとは違った観点での高い教育効果に期待したいと思います。 また、懇親会会場を例年のホテルや学内レストランではなく機器展示室で行うと言う新しい試みもします。JESグッズも自粛モードで例年に比べて質素にしましたが、キャップをしなくても乾かない蛍光ペンはきっと気に入ってもらえると思います。

例年どおり有意義な2日間となることを信じてやみません。多数のご参加を心よりお待ちいたしております。

JES2013 実行委員会 実行委員長
大 木 隆 生
東京慈恵会医科大学 外科学講座
統括責任者・血管外科教授
(高知県観光特使)