実行委員長よりご挨拶

第4回JES開催にあたって

大木隆生

この度は、第4回JESにご参加くださいましてありがとうございました。毎年500名以上の方にご参加いただいておりますが、参加者がいなければこうしたシンポジウムは成り立ちませんのでご参加いただいた皆様に心から感謝致します。

私は2006年7月に12年間滞在した米国から帰国し慈恵医大血管・小児外科の教授の職に就きました。着任当時は私を含め血管外科医は3名しかおらず、月々の診療報酬額は32ある診療科中最下位、年間の大動脈瘤手術件数は5-6件でした。血管・小児外科の分野担当教授でしたので部下は2つの診療科を合わせても8名しかおりませんでした。また血管・小児外科が所属しております外科学講座(血管・小児以外に消化器、乳腺、呼吸器などが含まれる)においては入局者が5-6名と少ない一方毎年10数名が退局し医局の求心力が失われておりました。慈恵に着任した翌2007年の春には外科学講座全体を指揮する統括責任者(チェアマン)に指名されました。血管外科の立ち上げに専念しなくてはならない時期に外科医約200名と27の派遣病院を擁する外科学講座のかじ取りも任せられ、正直言って途方に暮れました。血管外科の立ち上げには、得意とするdistal bypass や頸動脈内膜剥離術に加え血管内治療を起爆剤としました。また求心力の低下していた外科学講座の活性化のためには学生時代の運動部をモデルとし、「トキメキと安らぎのある村社会」をスローガンに掲げました。「トキメキ」は患者の命を己の技量で救う外科医療のやり甲斐に加えて先進的な医療の開発や後進の育成が含まれます。「村社会」は米国型ゲゼルシャフト、競争社会、成果主義を反面教師としたゲマインシャフト社会です。すなわち医局員同士の絆を柱とし、喜びや悲しみを分かち合い、強者が弱者をかばう運命共同体的組織です。今年の7月で帰国して3年、外科学講座のチェアマンに就任して約2年が経過しましたが、無我夢中で目標に向かって邁進する日々であり、まさに光陰矢のごとしでし た。血管外科の立ち上げに関しては、年間の大動脈瘤治療件数が400を超え、月々の診療報酬額は32ある診療科のトップに躍り出ました。3名しかいなかった血管外科スタッフも岡山、千葉、慶応大学からの途中入局者に加えて若手の参入により13名と増えました。着任時には一人もいなかった血管外科講師は現在3名もいます。外科学講座の運営も極めて順調です。入局者が退局者より少ないことから医局員数が年々減少する傾向にも歯止めがかかり、現在医局員数は232名を数えます。今年は入局者21名に対して退局者はわずか2名でした。この事は学生や研修医に対して外科学の魅力をきちんと伝えることが出来たことに加えて、医局に明るさが戻った為だと考えています。さらに、この3年間で外科学講座の診療報酬はほぼ倍増しました。帰国してからの3年間でとった休日はゼロととても忙しい日々でしたが、この上ない成果が得られました。また何より嬉しいのが、この喜びを分かち合う良き仲間に恵まれたことです。

さて、JES2009に関してですが今年も新しいデバイスやテクニックが目白押しです。デバイスで特記すべきはTAGに続く第2の胸部ステントグラフトとなるTalentが薬事承認を得た事、0.014”ベースでlow profileかつしなやかな Palmaz Genesisステントが腎動脈でも保険適応となった事、stent fracture resistant な E-Luminexxが上市された事です。また、Cutting balloonが復活しました。さらに、近日中によりしなやかなZenith Flexが薬事承認を取得することも見込まれています。Angioguard/PRECISEを用いた頸動脈ステント術を施行するためには日本血管外科学会が策定する血管内治療認定医を取得する必要がありましたが、認定医制度自体が存在しなかったために血管外科医が頸動脈ステント術を施行できないという状況にありました。そのため今日現在、脳外科医で Angioguard/PRECISEの実施医は400人以上存在するのに血管外科医では私唯一人という異常事態を招いておりましたが、幸い今年の7月に認定医制度が発足しましたので血管外科医にも頸動脈ステント術の道が開かれました。急増している内頸動脈狭窄症に対する標準的治療である頸動脈内膜剥離術をきちっと行える術者が日本には不足しています。近年の画像診断の発達・普及に伴い無症候性の内蔵動脈瘤が多数見つかるようになりましたが、未だ確立された治療法はありません。JES2009では以上述べました事を念頭に24症例のライブ手術を企画しましたが、目玉は本邦初公開の世界最小の傷を誇る慈恵式頸動脈内膜剥離術でしょう。

JESでは毎年参加者の皆さんを対象にアンケート調査を行っておりますが、多くの方から例年通りの月・火曜日開催より木・金曜日開催の方が好都合であるとの意見が寄せられましたので、そのご要望にお応えして初めて木・金曜日開催としました。また、「講演の数が多すぎる」「ライブ症例をもっと増やしてほしい」との意見も多数寄せられましたのでライブ症例を21例に増やし、講演数を減らしました。初日(木曜日)の夜には例年通り参加者全員を無料で招待する懇親会を東京プリンスホテルで企画していますので奮ってご参加ください。また、ライブ中にもご遠慮なく各テーブルにあるマイクを使って忌憚のない意見を聞かせてください。

今年も「胸部・心臓血管外科ライブ手術ガイドライン」を遵守しながら、本会を運営します。その一環として、症例検討タイムを設け、昨年の症例の経過報告集も作成しました。また症例選択にあたっては、特殊症例ではなく比較的一般的な症例を選びました。

愚者は経験に学び賢者は歴史に学びます。新しい分野である血管インターベンションの領域では未完成の医療器具や手技がまだたくさんあります。我々の成功や失敗からより多くのものを学んでいただき、明日からの治療に役立てていただければ幸いです。またこの度、慈恵医大血管外科の総力をあげて「胸部大動脈瘤ステントグラフトの実際」(医学書院)という教科書を書き上げました。是非多くの方に読んでいただければ幸いです。今年も、一人でも多くの方に「JESに来て良かった、勉強になった」と言ってもらえることを、慈恵医大血管外科スタッフ一同願っております。

平成21年8月

Japan Endovascular Symposium研究会
実行委員長
東京慈恵会医科大学 外科学講座統括責任者

大 木 隆 生